きまぐれポーエット

□無題
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歪んでいく空は
いつもより青く澄み切っていて
だんだん崩れてゆく地面も気にしないで
狭間から溢れる闇と輝に見入っていた
やがて足元の支えも無くなって
大地の裂け目に飲み込まれていくときも
少しずつ壊れていく美しい蒼から
目を反らすことは出来なかった。
大いなる虚空の中で
どことも知れぬ底へ落ちる途中
誰かが耳元でそっとささやいた
これが−−なのだと。
次第に薄れゆく意識の中で
それだけが確かな存在に変わっていた。
これ以上は何もいらない
手に入れることもない
消えゆく肉体と精神の奧で
微かでも光るものはあったと
最期だけでも信じることはよいのだろうか。
一つだけわがままが言えるのなら
夕日の見える故郷の丘で
幸せそうに笑う風に
もう一度触れたかった。
別れを告げる相手もいない
繋がりもない
無に還ることが
こんなにも静かなことだとは思っていなかった


赤く揺れる小さな灯火がたった独りで天空へ昇っていった。

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