赤の魔闘師
□#1〜3
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止めろメリオル、赤を受け継ぐお前程の魔術師であっても、この儀式は無理だ。ー
ー何故だ?どのみち誰かがやらなければならない、やりたがる者がいないなら仕方がないー
ー万全の準備も整っていないのに、どれだけの代償を払うことになるか、ー
ー準備などしている時間はない。俺は行く。ー
それは今から数えて三年前、世界はある大きな危機に襲われた。
ある魔術師の手によってその危機は回避されたが、結果再来を防ぐ意味も含めてそれに関する一切の記録が抹消された。
その魔術師の記憶だけを除いて
赤の魔闘師 〜力を宿すモノ〜
モノとモノ
「あぁっ、もうしつこいって。」
濃い橙色の髪と淡い空色のコートを揺らして一人の少年が苛立たしげに人混みの中を通り過ぎる。そのすぐ後ろにはいくつものヒトならざる蠢く影が控えている。
ヒトならざるが故にヒトとなることを望むモノ。それらは高い魔力を持つ人間を己の器に選び魂を喰らい、そうして空いた体に意識を割り込ませヒトになれたと錯覚するのである。
そして今、少年はそれらに追われていた。
「止まれ、赤き魔闘師」
「止まってたまるかって。」
少年は軽く叫びながら歩く速度を上げ、消えた。
正確には消えたのではなく、瞬間的に上空へ飛び上がったのだ。重力に逆らって浮かぶその足元には強く輝く橙色の魔方陣が現れていた。
「他人の身体を奪っても悲しいだけだって。」
ヒトならざるモノはなおも少年を狙って上空へと跳ね上がる。しかし、それらが少年のもとへ辿り着くのより、少年が行動を起こす方が早かった。
「姿を持たぬ気ままなる風よ、確かなる姿を持て、赤き力を宿しつるものに従え。顕れよ、風の化身 ウェントゥス。」
少年の唱えた詞に導かれるように周辺の風が集まり、形をもっていく。その姿は美しい大鷲だった。
「風の化身、ウェントゥスよ。長き鎖となりて彼のモノたちを捕えよ。」
唱えながら少年はヒトならざるモノたちのを指した。
風でできた美しい大鷲は端から崩れ、細長く伸びてそれらをがんじがらめにした。こうなってしまってはもう手も足も出ない。
少年は構えを変え、はっきりと高らかに叫んだ。
「心を持てぬ哀しきモノたちよ、望みを捨て新たなる命を待て。イーレ・レディーレ・スカンデレ・オペリオル、今還れ、在るべき園へ。」
詞を受け、ヒトならざるモノたちは少しずつ薄れ消えていった。
「サヨナラ。」
そう小さく呟いて少年は地上へ降りた。
その時彼は、それを見ていた者がいたなどとはつゆとも思わなかった。