赤の魔闘師

□#16〜24
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ーモディー。できることなら、もう一度君に会いたいよ…ー



赤の魔闘師 〜力を宿すモノ〜
   月夜の歌い手



「なんか不思議な街だね?」
「元気ならいいんじゃねぇか?」
二人は次の街に辿り着いた。通りの至るところに様々な鳥の装飾が施されている。
それどころではなく、通りを行く人々の服にも個性豊かな鳥が描かれていた。
「そろそろ北だからね。春を告げる鳥は神聖なものなのかな?」
セーリウスはキョロキョロと物珍しそうに辺りを見回しながら言った。
「そうかもなぁ。それにしてもいろいろあるって。」
二人が通り過ぎた店屋の壁に北の鳥と南の鳥が向かい合ってミミズを引っ張り合っている絵が大きく描かれていた。
「ま、悪いことじゃないか。」

∧∨∧∨∧∨∧∨∧∨

満月も昇りきった夜中のことだった。セーリウスはふと目を醒ました。
…―‥-・…―‥-・…
「…歌?」
ソルキスを起こさないようにそっと窓から広場を覗いてみると水の止められた噴水の縁に男の子が腰掛けているのが見えた。どうやらその子が歌っているらしい。
「…こんな夜中に?」
セーリウスは音をたてないようゆっくり部屋を出た。

∧∨∧∨∧∨∧∨∧∨

…・・-‥…―・-…‥・-
「素敵な、歌だね。」
「!!」
セーリウスが話し掛けると男の子は驚きに目を見開いて勢いよく振り向いた。
「びっくりさせちゃってごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど。」
セーリウスは慌てて謝った。
「…誰か来るなんて思ってなかったから…。」
男の子は申し訳なさそうに呟いた。
「そっかぁ、もう夜中だもんね。君はこの街の子?」
「…半分当たりで半分はずれ。」
セーリウスの質問に男の子は素直に答える。
「最近引っ越して来たってことかな?僕は友達と旅をしてるんだ。北へ行く途中でこの街に寄ったんだ。この街は明るくていいね。元気が出てくるよ。」
「…この街の鳥には伝説があるんだ。」
セーリウスの話に応えるように男の子はとつとつと喋りだした。
「ここがまだ街じゃなくて村だった頃の話…


とても悲しい物語だった。

この土地の精霊が村の美しい娘に恋をした。

けれどもその恋は実らずに娘は嫁いでしまう。

精霊は美しい鳥に化けて娘を祝福に現れるが、苦しみのあまり人々の前で光になって消えてしまった。

しかし、精霊の祝福は娘に大きな幸福をもたらし、それ以来結婚式に鳥を放す習慣が生まれ、またそれが変化して鳥が幸せの象徴になった。


…それでこの街は鳥だらけなんだってさ。」
長く話すことにあまり慣れていないのか、男の子は話し終えると大きく息を吐いた。
「へぇー。よく知ってるね。」
「友達にこういうの好きな子がいたんだ。」
男の子は少しだけ俯いて言った。
「なるほどね。そうだ、まだ自己紹介してなかったね。僕はセーリウス。君は?」
セーリウスはにこやかにもう一度男の子に話し掛けた。
男の子が答えるまで少し間があった。
「…ハルモニア。」
自分の名前を口にすることを躊躇っていたようだったが、男の子、ハルモニアは小さな声で名前を言った。
「ハルモニアか。なんかぴったりだね。」
セーリウスはハルモニアに笑いかけた。
「そっちもそんな顔してる。」
「そんなに真面目に見えるかな?」
「そうでもない。」
「どっちだよ。」
「…久し振りだ。」
しばらくふざけ合った後、ハルモニアは呟いた。
「僕達初対面だよね?」
セーリウスは少し慌てて振り返った。
「モディーがいなくなってから、誰とも話さなかったから…。」
ハルモニアは身を守る盾を造るように片膝を抱えた。
「そっか。大事な人がいなくなるのは悲しいもんね。」
セーリウスは呟きながら仰け反って夜空を見上げた。
そんなセーリウスをしばらく見つめた後、ハルモニアは小さく呟いた。
「…また、ね。セーリウス。」
セーリウスが振り向いた時にはもうハルモニアの姿はなかった。

噴水に浮かんだ満月が嘆くように歪んだ。
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