赤の魔闘師

□#25〜
1ページ/11ページ

空は晴天。行楽日和である。
そんな草地の中を不似合いな甲冑姿の人影が走り抜けていく。
その先には追い掛ける人影に釣り合わないほど小さな背中がある。
「だからね、僕は王位継承権なんてね、持ってないんだけどね。」
その少年は襲いかかってくる甲冑に向かって言った。
「それに僕を捕まえてもね、従兄上たちは動いたりしないんだからね。」
甲冑は答えなかった。黙って剣を抜き、少年に向けて構える。
「仕方ないね。」
少年はため息を吐いて自らの腰元に手をやった。
ベルトに提げた革袋に二本の銀色に光る短い棒が挿してある。
少年はごく自然な動作でその一本を取り出すとまるで剣を構えるかのように甲冑の男たちに向けた。



赤の魔闘師 〜力を宿すモノ〜
   出会いの日和



空は晴天。行楽日和である。
そんな草地のそばを二人は進んでいた。
「っ!」
ソルキスは急に歩みを止めた。荷物を持っていない左手で咄嗟に自らの鼻を覆う。
「これは、血の臭い?」
セーリウスもキョロキョロと辺りを見回した。
少しして、その視線がある一方で止まった。
草や木立がざわざわと揺れ、幾つもの何かが動き回っている気配を漂わせている。
「獣か?」
ソルキスは少し背伸びをした。
「違う、」
セーリウスはそう言って目を細めた。
「…人だよ。」

∧∨∧∨∧∨∧∨∧∨

木立の向こう側には何人もの甲冑を身に付けた男が倒れていた。それぞれに手の、足の、腹の傷を押さえて苦しげに呻いている。
セーリウスはそのうちの一人のそばにしゃがんで傷を見た。
「全部急所を外してある。でもこの大きさと深さじゃ出血もひどいし、傷口から腐るかもしれない。何人かなら手当てできそうだけど、」
そう言って上着の中を探りながら周囲を見回した。
倒れている男の数はざっと数えて二十人前後、うちの何人かはもう呻いてすらいない。
「ほっとくわけにもいかねぇしな。とりあえず出血だけでも止めておくって。」
ソルキスは数歩下がって間をとると大きく右腕を振り上げた。
「草木より生みい出されし美しき布地よ、新たな形を持て、赤き力を宿しつるものに従え。顕れよ、織物の化身 テクストゥム。」
その詞に応えるように男達の着ていた衣服の端が少しずつ千切れ、ソルキスの前あたりにまとまった。少量だったそれらは少しずつ量を増やし、白く大きな花を形どった。
「織物の化身、テクストゥムよ。清き血止めとなれ、彼の者達の息吹きを繋げ。」
布でできた花は端から細長く裂け、男達の傷を覆っていった。白かった布地は血によって赤く染まっていったがない状態よりはずいぶんいいだろう。さっきより呼吸の落ち着いた者もいた。
「にしても、一体誰がこんなこと、」
ソルキスが言いかけた時だった。
修練を積んだ者にしか捉えられない速さでセーリウスが腕を振った。続けて甲高い金属のぶつかる音。
ソルキスの足元には二本の短剣が刺さっている。一本はセーリウスの投げたもの。もう一本は、
「あーあ、弾かれちゃったね。」
近くの木の上から明るい声がする。
「誰だって?」
ソルキスの問いかけに応えるように木の上から一人の少年が颯爽と地面に降り立った。
「友達に助けてもらうなんてね、卑怯だと思うんだけどね。」
その少年はうざったそうに長く伸びた茶色の前髪を片手で梳きながらゆっくりと二人の方へ歩いて行った。
「正直がっかりだけどね。見つけちゃったね、赤の悪魔。」
手を退けて真っ直ぐにソルキスを見据える瞳は紫色だった。

思いがけぬ出会いは新たな歯車を繋いで
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ