短
□渇望
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ドアノブにかけている手にぎりっと力が入る。
「もし、志々雄さんが暗殺者にやられたとしたら、志々雄さんはそこまでの人だったってことですよ。もしの話ですけど。志々雄さん強いですから。」
「でも・・・」
「宗の言うとおりだ。由美。俺が負けると思ってんのか?」
「まさか・・・そんなことありませんわ。」
「そうだろ?由美。包帯を外してくれねぇか。」
「はい、わかりました。」
優しく由美の後頭部を押さえ、接吻した志々雄にうっとりした由美が包帯に手をかけるのを見てから宗次郎は部屋を出た。
「じゃ、僕は取りにいきますね。」
「おう、頼んだぞ。」
ばたんっとドアが閉じてから由美がむっと口をとがらせる。
「志々雄さま、替えの包帯ならすでに部屋に置いてあるじゃないですか。」
「あぁ、そうだな。」
「なのに、なんでわざわざ宗の坊やに取りに行かせたんですか?」
「たまにはあいつに頼っておかないとな。機嫌損ねるとあとがめんどうなんだよ。ガキだからな。」
志々雄は閉じられたドアを見て、ため息をついた。
瀬田宗次郎。
幼い頃、養父たちからの壮絶な虐待のせいで喜怒哀楽のうち楽以外すべて失ってしまった志々雄の自慢の懐刀だ。
いつも顔には笑顔を張り付けているので、何を考えているのか、わからない。
実際は何も考えてないのだが。
そんな宗次郎の誰も読めない心の変化は長年そばで見てきた志々雄にしかわからないのだ。
由美が志々雄の傍にいるようになってからよく見えるようになった。
【嫉妬】
の笑顔なんて。
誰が判断つくのだろうか。
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