□渇望
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宗次郎は倉庫にいき包帯を手にする。

手にしてから、この包帯は今回も自分の手で巻かれることはないのだと思うと握りつぶしたくなる。

今まで、志々雄の身辺のお世話をするのは宗次郎の役目だった。

話し相手から稽古をつけてもらうのも。

すべて、宗次郎の役目だった。

湯につからせて、ふやけた皮膚を落とすのも。

焼けてただれた皮膚に薬草を塗り込むのも。

すべて、宗次郎だけに許されていた特権だった。

幼い頃から暴力しか与えられてこなかった宗次郎に「学」や「力」「生きることの摂理」そして「愛情」を教えてくれたのはすべて志々雄だった。

宗次郎の世界は志々雄で出来ていると言っても過言ではないほどだ。

何も考えなくっても、志々雄に言われていることは忠実に守れば、褒めてくれる。

それがどうだ。

あの駒形由美という女が来てからはすべて、あの女が持って行った。

話し相手も、包帯を巻く係りも。

「愛情」も何もかもすべて。


「・・・・」


この腹にうずまくどす黒い感情の正体はなんのか考えたくもない。

宗次郎はじっと手の中の包帯を見続ける。


「・・・何をしている。」

「あ。方治さん。」

「包帯か。まだ新しいのは部屋にあったんじゃないのか?昨日、私が補充しといたが。」


あぁ・・・


「これは僕の機嫌を取るために取りに行かせたものですから。ひどいな〜」

「お前、機嫌を損ねているのか?」

「え?わかります?」

「いや、いつもと変わらんが。」

「あ。そうですか。」


ニコニコしながら、宗次郎は包帯を懐に忍ばせた。

方治は不審に思いながらも口を開く。







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