□水中心中
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ただ時間はゆっくり流れる。

何をするでもなくただゆっくりと。

薫は光を反射してキラキラ輝く川を眺めていた。

その横でボロボロに日記を手に目はどこか虚ろな男が座っている。

会話もなく、ただ川を見つめる。


「・・・」

「お前は・・・」

「なに?」

「こんな所にいてもいいのか?」

「雪代縁は私がいたら嫌なの?」

「質問を質問で返すな」

「聞いてきたのはそっちじゃない。」


男、縁はポツリと呟いた。

その声は川の音に消されてしまう程小さいが薫の耳にはしっかりと届いた。

川の流れは速い。

まるでどこかへ攫ってくれそうな気さえする。


「消えたいね、このまま」

「・・・いいのか?」

「うん。」

「俺は何もないぞ。」

「いいよ。何もなくても。私も何も持ってないから。」


二人はお互いに顔を見合わせて、無言で頷いた。

薫は立ちあがり、縁に背を向けた。


「もう。いくね」

「あぁ。」

「また、会いにくるね。」

「今度は・・・アイツとの子供でも連れてくるといい。」

「うん。」


川と同じように攫ってくれてもよかったのに。

なんて言えない言葉を抱えたまま二人は別れていく。


(あぁ、あの川に身を投じで二人で溺れて泡になればいいのに)

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