贈/宝

□君の涙は見たくない
1ページ/1ページ



剣もやっておきたいというロウの頼みで稽古をつけていたロベルトは、休憩にと一旦鍛錬場の壁際に下がったロウの視線の先を見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。気付きたくもなかったというのに、気づいてしまったこと。
最初は半信半疑だったし、まさか、とも思った。でも、何度も何度も同じ光景を目にしていけば、おのずと答えは出てくる。知りたくなかった、というのが本音だが知ってしまった事はどうしようもない。
更に性質が悪いのは、ロベルトですら気づいたことをロウ自身がまったく自覚していないという点だ。これではどうしようもない。
だから、ロウにうっかり八つ当たりでもして自覚されでもしたら、最悪だ。どうにも出来なくなる。相手が相手なだけに何も言えないのだ。
そんな、今は見たくない光景から無理矢理引き剥がすようにして視線をそらし、窓から空を見上げていると、ぽつりと床に座り込んだロウが口を開いた。
「なぁ、ロベルト」
「……なんだ?」
「やっぱ、さぁ……クロデキルドって、メルヴィスと結婚すんのか……?」
ぼんやりとロウが見つめる先にはメルヴィスと談笑しながら打ち合わせをしているクロデキルドの姿がある。
大人っぽくてかっこよくて強くて、というロウにとっては憧れであり目標であるクロデキルドと、クロデキルドをして剣士団一といわれる腕前と冷静沈着かつ深い思慮を窺わせる双眸がすっきりとした美青年攻撃の一角を担うメルヴィスは、誰の目から見てもお似合いだ。
まぁ、フレデグンドが多少いちゃもんをつけているらしいが、そこはそれ。たぶん、フレデグンドも認めているのだろう。大好きな姉を取られるかもしれないのが悔しくて反発しているものの、そこかしこに信頼がうかがえるのだ。
そんな、あちこちから目の保養、と一種の鑑賞物扱いされているツーショットをぼんやりと見ていたロウは、誰もが思っているように、そうなんだろうなぁ、と改めて思ったのだ。だって、本当にお似合いなのだ。
そんなロウの問いにさらに眉間に皺を寄せたロベルトは、俺が知るか、と吐き捨てた。
「クロデキルド様がお決めになることだ。第一、俺ごときが知らされたり口を出せるような問題でもない」
「……それはそうだけどさー」
「それに、どうしてお前がそこまで気にするんだ?」
そんなこと、気にした事はなかっただろう、とロウの隣に一緒に腰を下ろして顔を見ると、複雑そうな表情で別に、と口ごもる。
「特に理由とか、あるわけじゃねぇけど……」
「ならなんだ。二人の事が気になるのか?」
「気になるっていうか……」
うーん、と悩む様子からは本当にまったく微塵も自覚してないのが見て取れて、そこだけは、安堵した。
ロベルトとてクロデキルドの結婚相手としてメルヴィスが候補の筆頭にあるのは間違いないと踏んでいるし、このまま行けばおそらくそうなるだろう、とも思っている。だから、このままロウが自覚せずに気付かないままで、いつかのときに傷つかなければ良いと、思うのだ。
目の前で泣かれでもされたら、きっとどうすればいいのか分からないから。
そんなロベルトの考えなど知らないロウは、やっぱあれかなーと呟いた。
「クロデキルドってさー、そこらの奴なんて目じゃないくらいかっこいいじゃん? 俺にとっても憧れだしさ」
「それで?」
「だから、フレデグンドと一緒、かな。クロデキルドの相手に生半可なやつがなるのが許せないっつーか……メルヴィスぐらいじゃねぇと認められない、感じなのかなーって」
そうきたか、と思いはするが、そう言いながらも少しだけ泣きそうなロウの表情に、思わず手が伸びる。こんなこと言うの柄じゃねぇよな、なんて俯いたロウの髪を撫でようとした所でぐっと拳を握って、ぽかりと殴った。気付かなければ気付かないでこっちがイライラする。いっそ気にするなと怒鳴り散らしたいくらいだ。
「ウジウジしてるほうがお前らしくない! ああもう、身体を動かすぞ! 余計なことを考えずにすむ」
ほら、と腕を掴んで立たせて鍛錬場の中央に向かう。
「お、おいロベルト!?」
「うるさいうるさい! お前が……っ、お前がそんな顔をするな!」
調子が狂う! と振り返って怒鳴り、手にしていた模擬刀を構えた。そうだ、あんな泣きそうな顔をされるくらいなら、あっけに取られてたり怒ったりしている表情のほうがずっといい。
「何つー自分勝手な……」
そんな急に怒り出したロベルトに呆れ半分ながらもはぁ、と溜息をついたロウは、ふるふると二、三度頭を振って顔を上げた。その真剣な表情にロベルトは口角を釣り上げて、宣言する。
「今日はみっちりやってやるからな。途中でへばるなよ!」
そして、いくぞ、と剣を振り上げた。












----------------------

神奈イツキさんから相互記念でいただきました!

ロベにょた主という大胆なリクエストに答えていただいて・・・・

本当にありがとうございますv

いやぁ、イメージ通りでびっくりしたんですよ、本当に

いいなぁ・・・・この感じ。

神奈さん、ありがとうございました!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ