幻水 ティアクライス小説2
□背中の温度
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「なぁ、アスアド、重くないのか?」
アスアドは足を挫いたロウを背負いながら歩いていた。
「重くなんてありませんよ、むしろ軽いくらいです。」
前を向いたまま、歩き続ける。
背中にかかる体温と体重を感じながら、少し嬉しそうに。
「悪ぃ、俺が・・・。」
「いいえ、ロウ殿は全然気にする事はありません。たまには俺にも役に立たせてくださいね。」
アスアドは笑っていた
後ろにいるロウには見えないように。
本当は嬉しいのだ、ロウとこうやって歩いている事ができるのが。
ロウが自分を頼ってくれるのが。
(頼ってくれている、というのはうぬぼれすぎだろうか。)
それでも。
「・・・ところで、何を見ていたんですか?」
ロウが足をひねってしまった時に。
「・・・あ、あぁ。ちょっと綺麗な鳥がいったから。」
ロウはずっと上を向いて歩いていたらしく、足元に穴があるのに気付かなかったのだ。
「そうですか・・・。ちょっと、うらやましいです。」
アスアドは小さく呟いた。
「・・・ん、何か言った?」
ロウがずっと見ていた鳥ですら、うらやましい。
(ロウ殿が俺だけを見てくれれば、いいのに。)
そんな事を考えながら、アスアドは歩いた。
後ろからアスアドにぎゅっと掴まるロウを、大事そうに背負いながら。
その体温を、体に感じながら
(・・・・本当は、アスアドを見てたんだけどな。)
ロウは心の中で、呟いた。