幻水 ティアクライス小説2

いつか、きっと
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ヨベルが廊下を歩いていると、前のほうから誰かが走ってくるのが見えた。

前を向かずに。

「あれ、ロウ? 何走ってるんだろ・・・・。」

ヨベルがのんびりとそれを見ている間に、ロウは段々近くなって、

余所見をしているロウは、ヨベルに気付いていない。

「え、ちょ、ロウ、前向いてはしっ・・・。」

ヨベルが気付いた時には、もう遅かった。


どーん!!!

勢いよくロウがヨベルに体当たりをする。

体当たりをされたヨベルは勢いに勝てず、床に倒れこんだ。

「いってー・・・・!」

「わっ、悪ぃっ、ヨベルごめん、大丈夫か!?」

ロウは焦った様子でヨベルの顔を覗き込む。

その距離はかなり近くて、ヨベルはなんとか『だ・・・大丈夫。』としか言えなくて、

さらにはちょっと下を向くとTシャツしか着てないロウのむ、胸が、

(・・・ちょ、見えてる・・・・っ・・・!!!)

ヨベルは思わず顔を手で覆う。

(やばい、鼻血でそう・・・!)

なんでこんな状況で! そう思って泣きたくなった。

「ごめんヨベルっ、後でこの埋め合わせはするからっ!!!」

勢いよくヨベルの体の上から起き上がると、ロウは急いでまた走っていく。

(何から逃げてたんだろ・・・・。)

ヨベルの疑問は、その後を追いかける人達によって解決された。

(・・・また迫られてるのかな?)

最近よくロウの結婚話を聞くようになった。

俺としてはまだちょっとロウには早いんじゃないかなーとか思ったりもするけれど、

自分もそう思っている一人なので何ともいえない気持ちだ。

(うう、俺なんか言う勇気すらないのに・・・・。)

自分の弱さが身にしみるのだ。




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「それで、また例の話?」

「あー、そうそう。もう本当に簡便してほしいぜ・・・。」

次の日、ロウとヨベルは食堂でジュースを飲みながら話をしていた。

幸いにも今日は結構混んでいて、ロウとヨベルを気にする人はあまりいない。

ジュースをのむヨベルは仮面をはずしている。はずさないと飲めないからだけれど。

ストローを噛みながらぶすっとした顔でジュースを飲むロウを見ていると、

どうしても可愛いと思ってしまうのは自分だけじゃないはずだった。

たとえそれが女の子だろうが、男の子であろうが、自分の気持ちは同じなのだろう。


でもそんな事言ったらロウは怒るんだろうなぁ・・・。

とか考えながら、ロウの顔をじっと見つめる。

「・・・・俺だって可愛いとかじゃなくて、かっこいいとか言われたかったのになぁ・・。」

ロウがヨベルの顔を見ながら言う。

ヨベルは本当に美青年だ。女の子がほおっておく事はまずないだろう。

あの仮面がなければ、だけど。

「・・・うぅ、俺そんなに自身ないんだけど・・・ロウだってかっこいいじゃないか。
俺より全然強いのに・・・・かっこよくないわけ、ない。」

「・・・へへ、ありがとヨベル。」

そう言ってもらえる事が普通に嬉しくて、ロウは笑った。

誰がどうみても本当に嬉しそうだ、って分かるような笑顔。

そんな笑い方をするから、ロウは皆にモテるんだろうなぁ、とヨベルは思った。

「女の体だからとか、そんなの全然かんけーないのにな。俺自身そんなに変われるもんじゃないしさ・・・。」

「うーん、確かにあまり変わらないよね。見た目だけっていうか・・・戦闘だって問題ないんだろ?」

「そうなんだよー、別に筋肉量とかは変わってないみたい・・・っつか、俺元々そこまで筋肉なかったみたい。」

「・・・・それが俺には不思議でならないよ・・・。」

それであんな剣を振り回せるんだから、とヨベルはため息をついた。

自分はロウみたいになりたいと思ってここに来た。

毎日見ていて、思う。

「ロウは、ロウなんだよ、きっと。」

俺にとって、尊敬できる人。それ以上に、守りたい人。俺が。

「だから俺も、ロウみたいに・・・いや、もっと強くなりたいんだよ。」

それってわがままかな?

「・・・ヨベルも欲がでてきたな。俺を負かすなんて10年早いぜ!」

そう言いながらすごく嬉しそうなんだけど、とヨベルは心の中で思った。

「さぁ、俺だって努力はしてるんだから、10年かからないかもしれないし。」

それに答えて、ヨベルも笑った。必ず強くなってみせると、心に強く思って。


「んじゃ、俺と稽古でもする?」

「え、いいの? 頼んでもいいかな、ロウ。」

それならさっそく行こうぜ、とロウは飲みかけのジュースを一気に飲み干して、

ヨベルの手をひっぱって稽古場へと走っていく。








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ヨベルはヘタレっぽい感じが好きです。
私が書くとヘタレすぎになってしまうのが難点・・・か・・・?

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