サイクル

□サイクル8
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泣きたくなった。



睨まれても、仲間外れにされても、身体に電気を流されても泣かなかった僕が、今この男の無垢で優しくて、それなのにどこか壊れそうな笑顔に…

ただ


ただ


目頭が熱くなったんだ。









「だからこそです。僕が怒ったのは」

骸は僕の両手を自分の両手で包み込む。



そういえば手を握ってくれる人は…小さい頃にいたな…




まだ僕の能力発揮される前に、母が握ってくれた。







あの時と同じで骸の体温はあったかい。





そんなの当たり前なのに






目から溢れ出すこのしょっぱいものは何?







「ほら、これ」



骸の右手が離れたかと思えば僕の首もとを指さす。



目をやればそこにあったのは銀色の首飾り。
小さめの鎖で繋がれた先には十円玉のような大きさの紫のペンダント。

なかなかオシャレなデザインで渋谷の109にでも売ってそうだ。


でも









これは僕のじゃない!!






そもそもミルフィオーレの研究室のモルモットだった身だ。こんなの買う時間も暇も機会もない。






だったら?






「これが能力抑制装置です。正確には『A雲型18番』ですが」


「これが…?」



「はい」





骸の話なんてちゃんと聞いたことなかったが『能力抑制装置』の言葉には反応した。

能力者を縛るようで嫌悪感を抱いたから。


能力を全否定されてる気がしたから…






だから



僕のイメージでは犬や猫が飼い主につけられる『首輪』だった。





「恭弥君の発作が止まったのはこの装置のお陰なんですよ。」


「そ…なんだ」


「この装置はうちの研究員によって開発されました。恭弥君の言うように確かに能力を否定する要素があるかもしれません。」





なんだろう…





骸の口調が柔らかい。


園児を優しく叱る保母さんのような。





「ですが、うちの研究員たちはこの装置をできるだけ一般人が見ても違和感がないよう、小型化の研究を諦めませんでした。何故だと思います?」


「…」






骸はあやすように僕の頭を撫でる。





「能力者を利害なしに大切に思ってるからです。」






大切…




その言葉は今までの僕にはあまりに無縁で




だからこそその言葉の温かみを知ってる訳で





「…ごめんなさい」




彼らにしてしまったことの重大さに気づいてしまった。










「うあああぁぁ…ごめ…なさ…」



かろうじて塞き止めていたダムが一気に崩壊し、洪水のように涙が溢れてくる。




それは骸や研究員たちに向けられた謝罪の気持ちと、今まで堪えてきた涙でもうぐちゃぐちゃ…







「っぅひ…ごめん…なさ…い…っふ」







今まで無理矢理止めていた全ての感情が流れて疲れたのと





何も言わずにただただ背中をさする骸の手に安心して…










僕は意識を手放してしまった







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