REBORN!

□モノクロプレゼント
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ああ、いいにおいがする。そう思ったのは並盛駅の地下のショッピングモール。しかし駅の地下だからといって甘く見てはいけない。マッシュポテトにチキンライス、ミネストローネというおかず、主食から、ショートケーキやチョコレートというデザート系までほぼ全て揃っている。やっぱりここは腹を空かせた人間としてちょっと買い食いをしたいところだが、わたしはあいにくそんな金は一銭も持ち合わせていない。ああもう、こんな時にチョコクロワッサンの甘くてとろんとするかおりがしてくるなんて拷問に近い。


「見つけた…っ」


『ひば、りさん…?』


目の前に現われた彼は少し息を切らしていてわたしより白くてきれいな肌はほんのり赤みを帯びていた。


『どうしたんですか』


「きみのせいでしょ」


そんな、いきなり責任転嫁ですか雲雀さん。と言いたかったけどやっぱりこの人の制裁が恐かったので言わないでおいた。


「ねえ、」


『はい?』


「何で家出なんてしたの?」


そう言う彼は息はもう正常に近く、瞳はいつものように切れ長で刀のような鋭利さを含んでいた。本当にこの人には適わない。綱吉が手を焼いていたのもわかる気がする。家出の理由はわたしでもわからない。気が付いたら屋敷を飛び出していた。


『…あは、何、やってんだろうね、わたし』


「ほんと。いい大人のくせになにやってるのさ」


こんな時期にこんなこと、と彼は付け足した。そうかもしれない。ミルフィオーレがボンゴレ狩りをしてる真っ只中に、守護者のなかでも一番弱そうなわたしがこんなところで無防備にふらついているんだ。しかもわたしは色々ミルフィオーレのユニに関係がある。きっと白蘭もユニも、わたしのことを血眼になって探していることだろう。


「…そんなにあいつに逢いたかった?」


『………』



ゆっくりとアジトに向う彼の歩調に合わせる。確かに死ぬほど彼には逢いたい。否、死んでも、いい。あなたは今どこで何をしていますか。わたしはあなたのことを今でも想い続けています。犬ちゃん、千種。それからMちゃんにランチアさん。あんまり知らないけど凪ちゃんって言う子も。あなたの大切なものはみんなわたしの大切なもの。たとえあなたがわたしを忘れたとしても、わたしはあなたに着いて行きます。たとえあなたがわたしを憎んでいたとしても、わたしはあなたを愛します。


『……っ…あはは、了平兄貴のこと?やだなあ雲雀さん、逢いたいに決まってるじゃないですか』


早く長期任務から帰ってこないかなあ。…なんて無理して笑っているのがばればれだった。(でも早く帰ってきてほしいということはほんとよ?)
きっと彼は見ない振りしてくれるだろう。こんな弱っちいところは見せてはいけない。ボンゴレに弱いヤツは必要ないし、わたしはいつだって笑ってなければならないから。別に誰に命令された訳でもないけれど、これは自分で決めたこと。


『雲雀さん!早くアジトに戻らないと狙われちゃいますよ!』


彼は何か言いたげに眉をひそめたけれど、何も言わずに、黙ってわたしの頭を撫でた。心地いい。彼の手だからだろうか。男の人の手なのに女の人のように繊細なゆびさきをしている彼の手は、ぽんぽんとやさしくわたしの頭を撫で続ける。。ああ、涙がこみあげる。泣いてしまいそうだ。でもいっそ大声で泣けたらどんなにいいだろう。そうすれば、少しだけ心も晴れるだろうに。


『なん、』


「きみ、頭撫でられるのすきでしょ?」


あたってる。やっぱり伊達に長く一緒にいないなあと感心してしまう。でも、これ以上は、


『ありがとう、雲雀さん』


大丈夫ってわけじゃないけれど、もう、十分です。






それでもわたしは今だにあの人の残像に縋り、今を見れない。

















プレゼン
(ねえ、)
(きみはいつなったら)
(その瞳に、もう一度僕らを映してくれるかな)

END.

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